今日も全力GTi: 剛性追及、めたりっ子ちゃん(その2:終わり)
「めたりっ子ちゃん」極軸固着するの図(20191109暫定バージョン)
なんとか調整して20191110バージョンへ移行。
(調整個所については本記事の後半に詳述。)
オートガイドテスト状況
20191110バージョンでPHD2オートガイドをテスト。20191112実行。
目視で南に向け、極軸合わせなし。誤差が2~3度あるでしょう。
PHD2画面。赤緯軸で補正パルス連発、やっと軸が動いたが行き過ぎ(オーバーシュート)したと思われる。平均誤差はプラスマイナス4秒角程度か。今後種々の調整を考えたいです。
赤緯軸動作のヒステリシス改善状況動画
こんな組み立てで撮影しました。
シムリング交換前がこれ。
AZ-GTi赤道儀モード、シムリング交換前の動作特性です。
遠方のビル屋上の赤色灯を撮影。
セレストロンC5使用、正立プリズムを通して古いコンデジで撮影しており、上下左右は、ナチュラルです。
赤緯方向に動かすと、赤経方向に20秒角くらいまず動いてから赤緯方向に動作しており、ヒステリシスを描いています。
これは、オートガイド不良の原因になる可能性を感じます。
ヘアライン間隔は、30秒角から40秒角の間と思います。
シムリング交換後がこれ。
AZ-GTi赤道儀モード、シムリング4枚すべてをステンレス製に交換した後の、動作特性です。20191110バージョン。
セレストロンC5使用、正立プリズムを通してコンデジで撮影しており、上下左右は、ナチュラルです。
ぶるぶるという横方向の大きな振動は、ほとんど水平方向のビルの赤色灯を見るために、やむを得ず三脚を目いっぱい伸ばしたためで、水平回転方向のねじれ剛性が著しく低下しているからです。めたりっ子ちゃん自体の基本剛性にはすごいものがあります。
赤緯軸方向の動作をしても、ヒステリシスは小さくなっています。しかしながら、動作遅れ(モーターが回転始めてから星像が動き始めるまでのタイムラグ)は、改善しません。むしろ、赤緯方向は、動き始めの時間遅れが増大しています。原因不明。
また、この動画ではわかりませんが、三脚を最短にして星を眼視した印象では、①全金属化により、剛性が圧倒的に向上し振動数は数倍になり振幅も激減した感触があるものの、②振動の内部損失が減ったためか、振動の減衰時間はかえって長くなった、という印象があります。
なかなか、すべてがうまくはいきません。グリスの工夫、振動エネルギーを早く消費する工夫、その他いろいろ必要でしょう。
追記:2019年11月14日、ヒステリシスがなぜか再発してしまいました。赤緯軸の締めが磨滅で微妙に緩くなったようです。
20191109暫定バージョンから20191110バージョンへの調整個所
ポイントは、
1.極軸を締め付けるメガネ穴リングの締め加減調節(極軸固着回避)
2.極軸ステンレスシムリングのグリス拭き取り(クランプ固定力強化)
3.極軸ウォームホイールとウォームのシリコン系グリス除去およびリチウム系グリスへの交換。ねじ締め直し(赤経方向不安定挙動回避)
4.赤緯軸を締め付けるリングネジの締め加減調節(赤緯軸渋さとガタの調節)
5.水平軸(極軸)駆動モーターのエンコーダローターの筐体への接触対策
具体的作業
1.極軸を締め付けるメガネ穴リングの締め加減調節(極軸固着回避)
メガネ穴?のあるリングねじを固定している2本の極小イモネジを緩めたのち、特殊なペンチで締め付け度合いを調節します。
これが微妙で、リング角度で5度ずれると、軸回転の渋さが大きく変わるほど敏感です。シムリングがぶよぶよした不織布から金属化された効果と思います。
締め付け度合いが決まったら、極小イモネジを細い6角レンチで締めて固定します。このとき、小生のやり方ですが、力を込めてしっかり固定するイモネジは、1本だけ(赤丸のマーカーしました。)です。なぜなら、暫定バージョン(20191109バージョン)では2本均等に強く締めたにも関わらず、メガネ穴リングがトルクに耐えきれず、緩んで滑り締めあがってしまい、結果として今回の固着を生じたと推測するからです。これまでも、類似の機構のトラブル対処として、1本だけで強く締めて、対角部分が広い接触面積でしっかり摩擦固定されるように工夫してきました。その応用です。残る1本の極小イモネジは、抜けない程度に軽く締めたにすぎません。これは、あくまで、小生の個人的感想による対処です。
2.極軸ステンレスシムリングのグリス拭き取り(クランプ固定力強化)
暫定バージョンの赤道儀モードでは、極軸(水平回転軸)のクランプ固定力(ストッピングパワー)に依然として不足を感じたため、グリスを紙でほとんど拭きとりました。拭き取ると、クランプフリー時は回転がザリザリで不快になりますが、小生は強い固定力を優先しました。
3.極軸ウォームホイールとウォームのシリコン系グリス除去およびリチウム系グリスへの交換。ねじ締め直し。(赤経方向不安定挙動回避)
赤経方向の高速導入方向切り替え時に星像がひどく揺れる挙動及び赤緯軸方向に動かすときのヒステリシス様の挙動はを改善するために、①極軸(水平回転軸)ウォームホイールを、洗剤でよく洗浄し、いったん塗布したシリコーン系と思われるねばねばグリスを完全に除去しました。ウォームも、付着グリースを極力除去しました。そして、よりサラサラ感のあるリチウム系のグリスを、少量付けました。②また、ウォームと駆動モーターのアセンブリの取り付けネジ2か所を摺動するが曖昧性が極力無いように締め直しました。同時に、リチウム系のグリスをわずかに付けました。
グリースが、潤滑性を持ちつつ圧力を加えると固化するようになればいいなと思いました。つまり、かつて日産自動車が儲かる商売にはならなかったけれども、エクストロイドCVT(日本精工の精密加工と出光興産のオイル技術らしい。出光が点接触部の高圧で固化する特殊潤滑オイルを開発したと記憶。)に使用したような物性のグリスができないでしょうかね。
軸の頭に、試行錯誤したイモネジによる名誉の傷跡が見えます。
モーター回転検出エンコーダー、ミニ四駆みたいなモーター、同軸減速ギア、中継ギア、ウォームが一体化したアセンブリーが、2か所のネジで、バネの力でウォームホイールに圧着する構造です。少し力がかかるだけで、ウォームが浮く構造です。ゆくゆくは、ギリギリまで隙間無くすように調節していく予定。(これは、駆動系損傷のリスク高い危険行為です。良い子は禁物です。)
4.赤緯軸を締め付けるリングねじの締め加減調節(赤緯軸渋さとガタの調節)
ゆるくなったので、固着しない程度で、きつめに調整しました。しかし、リングねじの僅かの回転(5度くらいの回転)で渋さが大きく変わるので、実際の使用では、気温の変化や経時変化でどうなっていくのか、興味深いです。なお、極小イモネジの1本だけ締める手法は、水平軸(極軸)の場合と同様です。
5.水平回転軸(極軸)駆動モーターのエンコーダローターの筐体への接触対策
モーターに直結して、昔のマウスに使われていたような、小型の回転検出エンコーダローターがついているのですが、それが筐体に接触していました。こすれたのでしょう、黒い跡がついていました。思えば、ときどき「カカカッ」という音がしていましたが、関係があったのかもしれません。写真の筐体底面赤丸の左右に線上の黒いのが跡です。これも、ひょっとしたら、高速導入方向切り替え時に星像がひどく揺れる原因かもしれません。そこで、筐体のアルミを少し削りました。
削った後(小型の手工芸用ルータを使用。小さなルーターがあると、なにかと工作に便利です。)
接触は改善しました。
最後に: まとめ、考察等
総じて、シムリング全金属化は、半端ない基本剛性増加をもたらしましたが、AZ-GTiは、そもそも赤道儀モードではなく、本来の経緯台モードが正しい使用方法と思います。両軸や駆動系の構造は、経緯台としての使用が前提だと思います。
1.全シムリング金属化による基本的剛性の向上は、著しいです。腕で力入れても、たわみ激減です。鉄腕アトムが10万馬力から100万馬力にパワーアップしたみたいです。でも、耐久性や安定性には不安があります。頻繁な調整が必要かもしれません。
2.金属シムリングに交換しても、駆動系ギアに起因するバックラッシュには効果がありません。また、ウォームホイールにウォームがバネの弾性で常時圧着されるという構造ですが、この構造も疑問です。これらの点は、金属シムリングでは、解決しません。
3.高い剛性とクランプ力と操作性の調和のために、極軸(水平回転軸)を締め付けるメガネ穴リングねじの締め付けが重要かつ繊細です。また、赤緯軸と軸穴の隙間による生来のガタには、赤緯軸のリングねじを微妙にきつくしめると効果がありますが、水平軸同様、締め付けが重要かつ繊細です。
4.グリースも難しく、結局のところ、極軸(水平回転軸)の今回交換シムリングのグリースは紙できれいに拭き取りましたので、ほとんど残留していません。これは、かなり試行錯誤した末の暫定バージョン(20191109バージョン)ですら、赤道儀モードでは、クランプ力に不足を感じたからです。グリースほぼなしでは、クランプフリーで手動回転すると極軸(水平回転軸)は不快なザリザリ感がありますが、小生は、赤道儀モードで必要な強いクランプ力を得ることを優先しました。なお、経緯台モードならば、Lambdaさんのようにグリースを使用して快適にするのが適切ではないかと思いました。
5.小生の観察では、赤緯軸(上下動軸)のシムリングは、不織布みたいで実測厚さ1.2ミリでしたが、これでは厚さ不足でウォームホイール歯とウォームの軸の位置がずれているように見えました。小生には、厚さ1.8ミリ程度必要に見え、セミオーダーにおいて可能な2ミリ厚を選定しました。ただし、小生の個体のウォームホイールの歯の切削自体が、この位置ずれをある程度考慮しているようにも見受けられるのですが、削りがホイール円周の場所によって一定でなく、実際のところ、よくわかりません。オーダーするときのサイズは、自己責任で判断する必要があると思います。
6.上下動軸のテフロンリングは、摩擦が少ないのは素敵なのですが、剛性に不足を感じたので2枚とも金属化しました。しかし、金属リングの場合、剛性は抜群ですが、締め付けリングの僅かの締めの変化(5度くらい)で回転の渋さやガタ発生が大きく影響を受けます。赤緯方向に鏡筒を動かすと、赤経方向にも少しぶれるという現象に通じているのかもしれません。対処として、薄手の金属リングとテフロンリングの併用という方法もあるかもしれません。
7.極軸(水平回転軸)のクランプはクランプ力に難のある構造と感じます。他方、今般Sky Watcher社から発表のAZ-EQ AVANTでは極軸体は赤緯軸体と同じ構造に見えるので、改善されているかもしれませんね。楽しみです。小海星フェスでもっといじればよかった。
8.赤緯軸(上下動軸)は、クランプの回転をスラストベアリングで逃がす構造であり、メリットも感じました。クランプを締めるときに釣られて軸が回転する量が極めて少なく、また、クランプの固定力も大丈夫な水準でした。
9.赤緯軸(上下動軸)は、無改造テフロンリングのままでも、望遠鏡アリ溝金具を外して、軸締め付けリングネジをわずかに締めるだけで、かなりの剛性向上を体感できました。
10.いずれにせよ、AZ-GTiは、日曜大工程度でいろいろ楽しめる、素敵な素材です。
ああ疲れた。今日も全力変態ってしまいました。
(了)
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コメント
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素晴らしい分解記です!
私の検討が不十分であったと思われる部分も含めて、詳細な検討と調整を行っておられて、脱帽です。
ひょっとしたら、件のスペーサー内径の件、私の誤記によってご迷惑をおかけしてしまったかもしれず、大変申し訳ありませんでした。
(垂直軸スペーサーの厚さは、もう一度確認してみたいと思います。)
私は赤道儀化は行っていなかったのでクランプ力の問題が顕在化しませんでしたが、特にガイド撮影でバランスを崩すことを行おうとすると、重要な問題かもしれません。
経緯台ではフリーストップ動作に注力してしまいました。
振動は、おっしゃるように高剛性化を果たすと、最初に与えた変位で別のところが大きく変位してしまうので、評価がなかなか難しいと感じています。
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ところで、私もウォームギヤをバネで押し当てる方式には疑問です。
ネジ二つで固定するようになっているので、バネを取り払って、適切なスペーシング状態で固定してしまうのがいいだろうなあとは思っているのですが、調整のたびに分解を要するのが躊躇してしまうところです。
いずれにせよ、大変貴重な分解記と写真の数々(私は撮影をサボってました)、ありがとうございます!
投稿: Lambda | 2019年11月16日 (土) 11時46分
>Lambdaさん、こんばんは。
>
すばらしいセミオーダー方法教えていただき、ありがとうございました。
おかげさまで、めたりっ子ちゃんは、振動が「ぶりんぶりん」から「びいい~ん」に進化しました。
先週別件(2インチダイアゴナルミラーを鏡筒へ接続するパーツ探し)でスターベース東京に伺ったときに、お店の方も岩田製作所さんをご存知で、ボーグのリングに同社の薄いSUSリングを6枚つけて試したりしました。工作の強い味方ですね。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。
投稿: M87JET | 2019年11月16日 (土) 22時34分